昨年の終わりごろから息子から山に行ってみたいという要望があった。
身近なところにザックやクッカー等のアウトドアアイテムがあったり、写真を見せてこういう山に登っているという話をしたりしていたので、父親が登る山がどういった物なのか息子なりに興味があったのだろう。
俺が山登りをしている姿をテレビで見たこともあったしね。
ホームマウンテンの右田ヶ岳は低山ながら県内のほかの山と比べると岩場が多く、どちらかといえば急峻な分類に入ると想う。
中でも塚原ルートは比較的穏やかな方で、周辺の保育園の卒園登山で園児も登る山だ。
子供の小さな体だと難所となるようなポイントは少なからずあるが、俺の経験値で言うとこの山を登れるようであれば、おおよそ県内の低山は難なく登れるはずだ。
ずいぶん前には息子を担いで山に登っていたこともあったが、親が無理やり引っ張って行ったわけでも無く、自らが行きたいと言ってきたこともあって一緒に山に登ってみることにした。
そんなこんなで子供を連れだって、塚原ルートから分け入る。
「トトロの森のトンネルみたいやね。」
そう言いながら当たりの様子を伺い、樹林帯を進む。
俺も嫁さんもことさらスポーツには無関心で、それもあってか息子もあまりスポーツというのに興味を示さなかった。
本人もサッカーや野球は興味が無いというし、小学校の担任の先生からもあまり外で遊ばないという話を受けていた。こればっかりは本人の興味の問題だし、強制しても仕方のない事なので気にしないでいた。
本人が興味のない事を強制した挙句、楽しめと言うのは実に傲慢な大人の要望なのである。
学童へ迎えに行っても周囲の友達は外でボールを蹴って遊んでいるのに対し、息子は室内で本を読んだりブロックで遊んだりして過ごしていることが大半だった。
買い物とかで少し歩いただけで疲れたと言ってへたり込む姿がよくあったので、人の事は言えないが体の線も細くて体力無い子だなぁと想う事があった。
そんなこともあってか、どうせ途中でへたり込んで引き返すことになるかと想っていたら意外にも息子の足取りは軽く意気揚揚と山道を進んでいく姿に驚いた。
我が息子ながら意外な一面。
道中に生える変わった形の植物や、イノシシに掘り起こされた砂地を観察しながら山頂を目指す。
樹林帯を抜けると開けた砂地の道。
「あのてっぺんが今日のゴールだね。」
今は平坦な道だが、ここから進むと難所が増える。
右田ヶ岳が急峻と言われるのは山体の多くが花崗岩で覆われた岩山であることだ。
壁のように行く手を阻む岩稜帯は否が応にも大きく足を上げねばならない上、急こう配がそこそこ長く続くのでゆるやかな坂を小股で歩くよりも何倍も体力を削がれてしまう。体の小さな子供からするとその段差はかなり大きなものになる。
「ちょうどアスレチックで遊びたかったから岩を登るのが面白い。」
足場の悪い岩場を進むのが嫌になるかなと想ったら、岩を踏破していくのが楽しく、嵌ったようでノンストップで難所の岩場を進んでいく。
振り返ってみては高度が上がり、だんだん街が小さく、低く変化していく様子を愉しんでいた。
我が息子ながら意外な一面。
『こんなボロボロの木で出来た梯子より、こっちの道。」
「おい~!ロープしょぼいわ~!こんなんなら岩とか木を掴んでいくわ~!」
面白い感性をしているなと想ったのが、取り付けられている人工物の状態を確認して碌に使えないと判断したら、あっさり頑丈そうな岩や木に手をかけてバランスを確保していたことだ。
何処の誰かが何時掛けたかもわからないロープや鎖に全体重をかけないのは基本。
残置されたものに頼らず岩や木などを観察して手掛かり足掛かりにして登って行く方が最終的に安定していて安全。というのは周南山岳会会長の教え。
ついつい人工物を信じてしまうのは物質社会に慣れてしまった影響なのか。
そう教えることも無いまま、三点確保で身の丈を越える岩を登って行く。
我が息子ながら意外な一面。
この樹林帯を抜ければもう山頂まであと少し。
疲れる様子も無く元気いっぱいに登ってましたな。
想っていたよりもペースが速かったので早く到着してしまい、山頂には常連さんたちはおらず静かな山頂だった。
子供は山頂から下界を見て喜んでいた。
お湯を沸かして、コーヒータイム。
どうも持ってきたココアは息子にとっては苦かったようだ。
取り敢えず山頂でカロリーメイトを食うという目的は達成した。
さて元来た道を戻るのが定番だが、想ったより息子が軽快に歩いて進むので少し大回りするルートを提案したらそっちに行ってみたいという事だったので塔の岡ルートを下る。
稜線のアップダウンがあり、緩やかな分迂回して距離が長い。
そして例に漏れず、稜線への取り付きの部分は岩場で急峻だ。
右田ヶ岳においてどのルートを辿っても岩場を抜けることになるので登りだろうが下りだろうが避けては通れない。
体力的には登りがきついが、それよりも下りの道の方が体の安定性が必要になってくる。
登りの動きを見てみても、多少距離が長くなっても行けると判断した。
少々長い距離を歩いてみて体力がどれくらいあるのかを知りたかったのもあった。
下山の道中でいつもの常連さんと遭遇。子供が登ってきてくれていることに常連さんたちも大喜びだった。みんなとハイタッチしてまた遊びに来ることを約束した。
子供も常連さんたちに話しかけられ、特製の右田ヶ岳の缶バッチも貰って喜んでいた。
塔の岡ルートは緩やかな稜線。木段もあって比較的歩きやすい斜面が続く。
元気が残っているのでなかなか快調なペース。
「あの一番高いところから山の淵を歩いてここまで来たよ。」
ここからは稜線の取り付きで急斜面の岩場。
登りよりも圧倒的に難しいのは下り。登りは体力、下りは技術。
三点を確保してゆっくり降りる。
岩自体、高低差もそこそこあるし、辺りは開けて下界が丸見えなのもあって怖がるかなと想ったが自分で何とか降りていた。
手取り足取りの補助は必要無いようだ。
慎重ながら豪胆。
我が息子ながら意外な一面。
このケルンの横を下れば難所はもう終わり。
階段を過ぎれば後は穏やかな樹林帯だ。
「インディージョーンズ見たい!ぼろぼろやん!二人で渡ったら崩れるから先に行ってて!」
ぼちぼち疲れて来たかな。
軽快に下っていたものの、長く続く下りにはさすがに堪えたようで、「足が痛くて元気が2%しか残っていない。」といってへたばっていたな。
それでも右田ヶ岳の一番長いルートを自力で歩いて抜けれたので上等上等。
往路:塚原ルート
時間:1:25’19”
距離:2.22Km
消費カロリー:118kcal
平均心拍数:130bpm
往路:塔の岡ルート
時間:1:52’20”
距離:3.37Km
消費カロリー:132kcal
平均心拍数:113bpm
想ったよりもなかなか良いペースなのに驚いた。
今までにない非日常・新感覚で面白かったのか下山直後を除いては終始元気いっぱいでしたな。
帰りに昼飯で肉でも食って帰るかといったら、焼肉食べたいとねだられたので焼肉店に入ってランチを頼んだのだが、米みそ汁のついていない肉オンリーの大皿を注文。
米は食わんのか聞いたところ。
「肉を食いに来たのだから、肉以外食べない。」
とのこと。
我が息子ながら意外な一面。
大皿じゃ足りなかったので追加追加・・・。
ええ昼飯代になったぜ。まぁ食え食え。食ったらすぐに元気になってましたな。
元気があるのがうらやましい。
そういえば数年前、山中で行方不明になった子供を警察が何日も探しても見つけられず、途中で参加したスーパーボランティアの尾畠さんがものの30分で発見した逸話がある。
その時に、子供は本能的に上に上がるという言葉がとても印象に残っている。
確かに、ペースで見ても子供の体格から言うと楽なのは登りのようで、道迷い等の恐怖で下手に思考し、下りに走りがちな大人とは行動パターンが違うようだ。
息子視点だと、アスレチックの様でなかなか面白かったらしい。
次の日曜日も登りたいと言ってきた。
俺がテレビの取材で登ったルートを歩きたいんだってさ。
まぁ、直登はもう少し身長が伸びてからだろうね。
てっきりもう二度とやらんとか言うと想っていたのだけれど、そう来るか。
我が息子ながら意外な一面。
この姉さんは、下山の時に大分グロッキーだったけどね。