蒼天遊々な旅

LIFE IS TRAVEL

回顧録 パサール満ちる月の祭り 2


海へ身を投じる。

ダイビングのライセンスを取った時は毎週のように海に潜っていたが、山口に戻ってきてからはめっきりその数を減らし、年に一度か二度だけ素潜りで潜るだけになってしまった。
海水浴代わりに潜る海も、もっぱらパサールの眼下に広がるこの海だけになってしまった。


海には命があふれ、活気づいている。


出来るだけ深く潜水し空を見上げると、見慣れた空は其処にはなく、太陽に照らされた水面が美しく輝いていた。


暑さに耐えかねて潜った海も温く、まるで沖縄の海のようだった。

暑い。兎に角暑い。
丁度テントを張ったところが松林の裏でもあったので日中は風が通らず、テントの中も外も、タープの下でさえも蒸し風呂のような暑さだった。
そんな状況なので、日中を通し周囲のテントには人っ子一人いない。
会場も暑さにバテているのか、日陰や風通しのいい管理棟前でゆっくりしていることが多く、ステージもそんなことを予想してか、日中はDJが音楽を流しているだけでアーティストのライブは行われていない。

昼寝をしたり、仲間と談笑したり・・・。ポイの練習なんてしようものならイチコロで熱中症だ。
今年の暑さは尋常ではない。

それでも日が落ちると暑さは和らぎ、幾分かは過ごしやすくなる。
周南米、山口、広島・・・後詰めでやってきた友人たちが集まってきて、あっという間にタープ下は飲み屋になる。
それぞれ持ち込んだ飲み物や食事をつつき、大宴会モード。
入れ替わり立ち代わり友人たちが顔をのぞかせてくれる。
タープを張ったかいがあったな。

ステージ裏にテントを設営したこともあってか、アーティストたちの生演奏がBGMのように鳴り響く。
気になった音楽があったらテントを離れ聞きに行く。
なかなか、贅沢じゃないか。

ステージには、素晴らしいアーティストたちが軒を連ね、演奏、パフォーマンスをやっていた。

満ちていく月。
その妖しい光に照らし出されるステージ。


そのステージに響く、和でもない洋でもない音楽。
何処かで耳にしたような、それでも初めて耳にする音。

妖しく光る月光に照らされて妖艶に舞う。





会場にはアーティストたちのステージを観る為に、沢山の観客がいるが大歓声を上げるわけでもなく、ただただ其処の空気は静まり返り、皆は息を飲むように目の前に起きる現象を括目する。



妖しく輝くその欠けた月は静かに沈んでいった。


夕日のように赤くその身を染めて・・・・。