蒼天遊々な旅

LIFE IS TRAVEL

『汝、我を選べ。』 時折、そう聴こえる時がある。

天体撮影用に頑強な三脚がもう一本欲しくなってきた。


何にでもそうだが、三脚は値段と性能が比例関係にある。
高い物にも理由があり、そして安い物にもそれなりの理由がある。


予算が少ないのと、天文同好会の会話のキーワードで仕入れた情報で、周南市にある中古カメラショップ『カメランド』へ足を運ぶ。
自宅から歩いてすぐのところだ。


『カメランド』と言うネーミングセンスはさておいて、その店内たるや乱雑に、まるで街角にある妖しげな古書店の様な有様で、レンズ・カメラ・その他カメラ用品が山の如く不気味に並んでいる。

暇つぶしに店を訪れることがあったが、ほとんどの商品に値札が無く、ジャンク同様にしか見えない品々を手に観るだけで購入までは至っていなかった。
目利きが効くと、なかなか面白いのかもしれない。
そんな狭苦しい店内には、若い女性の店員と、中年の男の店員。そして、我が物顔で店内の椅子に腰かけている常連と思しき客のオッサンが、一人べらべらと話をしていて、何とも妙な雰囲気だ。

三脚は無いかと店内を物色すると、中型から大型三脚が、まるで朝市で売られている大根の様に乱雑に積み上げられている。


ふむ。
なかなかよさそうなのがあるかもしれぬと見渡たし、ガサゴソと手に掛けた埃だらけの一本の三脚。
何の気なしに引き上げたその一本は、当初より欲していたものと合致した。
案の定、値札は付いていない。
一応、それを第一候補に他のを見てみると有名どころの『ジッツォ』の大型三脚が数本ある。
なかなか堅牢だ。珍しく付いている値段を見ると40000円。ちっ、値札がついていやがる。
常連と思しきオッサンは、『そいつは値が下げられねぇよ。』と言っている。
どちらにしても予算オーバーだ。


そう考えると値札も張られていない第一候補の三脚は、ジャンク品か。
値札の張られていない他の三脚はパッとしない。
そう想って、狭い店内の周囲に気を使い、足をいっぱいに伸ばし、立てる。
む。何処にも機能不良は無いぞ。むしろ5kg以上は余裕で保持できそう。
どう見ても、中古で1万はするなぁ。
ふと。中年の男の店員に値段を聞いてみる。
若い女性の店員は、こちらに見向きもせず、パソコンの前で黙々とレンズを修理している。
『うーん・・・・。』
中年の男の店員は、三脚を片手に考え込んでいた。
・・・どう出るか。
『3000円?いや・・・3500・・・』
すかさず。
『じゃあ、3000円で買います。』
財布をポケットから引き抜いて、5000円札を取り出し、お釣りの2000円を要求した。
無駄な交渉をして下手に吊り上げれられるより、予算よりも大幅に収まっている内にハンマーをたたいた方が良いのだ。
事実、俺の予算は今しがた財布からだした5000円札なのだから。
『ええ買いものしたなぁ!がはははは!!』
常連客のオッサンはゲラゲラと笑っていた。


新たに戦列に加わったアイテム。

【 SLIK マスターⅢ 】

この傷の具合を見ると、前のオーナーはそれなりに使い込んでいたようだ。
今使っている三脚も同じ風貌なので良く解る。

ちょっと調べてみたら、メーカー価格42000円。
新品最安値でも19000円のなかなか上等なもんだ。
確かにあのオッサンが言う様に良い買い物したな。


はて。このような壊れてもいない頑強な三脚をわざわざ売りに出す理由は何だろう。
三脚も2万円を越す物はそれなりに上等で、正直一生ものなくらい使える。


『遺品整理に困った家族が、カメランドへ処理に出した。三脚をゴミとして出すと処分料を取られるが、このジャンク屋に処分に出したなら二束三文でも金になる。処分された三脚は店舗の片隅で新たな主を待つ・・・。この三脚を手にした者は・・・。』
まるでホラー映画が一本作れそうな妄想はここら辺でやめておこう。

SLIK独自の『フリーターン雲台』。主要部品はすべて金属製で出来ており、なかなか頑強な造りだ。
この一本のハンドルで上下左右の操作が出来る『フリーターン雲台』は星景写真にはとても重宝しそう。


『汝、我を選べ。』
時折、そう聴こえる時がある。




















家に持ち帰り、一通り磨き上げた後、改めて眺めてみるとなかなか良いもんだ。
素晴らしい。実にいいものを手に入れた。
こんな素晴らしい三脚は、今まで見たことが無い!
価格はどうでも良いのだっ。
そんなことより、素晴らしい!!
見ろ!この三脚を!!!






・・・ベットで一緒に寝る様になったら、呪われたと想ってください。