久々に、自宅の一室にある工房を開く。
創作意欲が湧かず、長らく放置してきた。
自分の身の回りの小物はあらかた作りつくした感があり、イマイチ思考が革細工へ向かわなかった。
いつも使っているウエストポーチの縫い目がほつれてきたので修理しよう。
ふと、そう思い立った。
このポーチは約4年前に、あるカフェの店長からフルオーダーで作ってもらった。
カフェの傍ら自身が制作する革細工の販売をやっていた店長のコンセプト作品に惚れ、乗り気でないところをお願いしたものだ。
こいつにはそのコンセプト作品の一部が取り入れられている。
それがきっかけで、革細工の世界へと足を踏み入れた。
こいつはいつも俺のそばにいる、想い入れ深いアイテムなのだ。
今回で２回目の糸の張り替え。
いつもは麻糸を使っていたのだが、耐久度の高いナイロン繊維のものに変更。
ほつれていたところは被せのところだけなので、その一ラインだけ。
久々に糸を通すが、まだまだ感覚は鈍っていないな。
糸は蠟引きされていて、黄色いが、使い込んでいくうちに銀色の輝きになる。
手に入れた当初は本当に真っ白で、店長も俺も『新しすぎてかっこ悪いなぁ』なんて言っていたが、ようやっとではあるが、なかなかいい味を出してきた。
たまにこの姿を店長にみせると、ニヤニヤとしながら革の感触を楽しんでくれた。
『30年は使える』
そう言ってくれた店長。
4年目、ということを思うとようやっと10分の1を過ぎたところか。
