新しくも古い?いや?古くも新しい?
『Ai Nikkor 50mm F1.2S』を中古で手に入れた。
店員さんもびっくりするほど新品同様のレンズだった。
今年の9月にカタログから姿を消したレンズでもある。
Nikkor史上最も明るいレンズとされて、根強く販売が継続されていたマニュアルフォーカスレンズ群の一つだ。
先日、大量のリバーサルフィルムを手に入れたということもあり、NikonFM2に追加装備で何か新しい事をしてみようと考えていた。
とりあえず、使っていないレンズを数本売りに出して3万程度で購入。
当レンズはカメラのキタムラの査定ではAB品という事であったが、メーカーオーバーホール済という事もあってか店長さんも「これはA級品」というほどの状態の良い品を手にすることになった。
フォーカスリングも手に馴染むようなトルクが残っており、これぞマニュアルフォーカスと言わんばかりの手ごたえを出していた。
設計思想としてはかなり古いレンズ。このモデルの初出は1981年という事でそれ以来設計が変わっていないとの事。約39年現行モデルとして発売されていて、カタログに記載されている時は「新品で買えるオールドレンズ」とも言われていた。ジャンルでいうと確実に『オールドレンズ』に分類されるレンズだ。昨今の大型化されていく高性能レンズと比べるとフィルター径は52mm。重量も360gとかなり軽量。
今の設計でF1.2のレンズとなるとこうはいくまい。Zレンズがいい例だ。
NikonFM2に装着した状態。
デザイン等、雰囲気はベストマッチの組み合わせだ。非常にまとまっていて良い。
ともかく、フィルムでレンズ性能を試すのは勿体ないので、ここは高画素機のD810へと装着して色々と試写した。
レビューするならやっぱりデジタルだよなぁ。
F1.2というだけあった後玉は限界まで大きく設計されている。
レンズの縁が薄い事。すごい精密な作りだなと思う。
昨今のプラ製のレンズと比べると、ボディはすべて金属製で360gにしてはずっしりと重く感じ、AFや手振れ補正など一切ないものの、手にした時の重厚感で作りの良さを実感できる。これは密度の違いなのだろう。
みっちりと詰まったレンズが金属ボディにしっかりとつつまれている感がある。
近所を散歩しながらスナップ写真。絞り解放で風景撮影すると何処かソフトフォーカスが掛かったようにぼんやりしている写りになる。
やっぱり古いレンズだから仕方ないよねぇ。
Zマウントの50mmF1.2なんて絞り解放でもピント面の描写はカリカリだったもんなぁ。まぁ。フィルター径85mmの重量1Kgなんてとてもじゃないがスナップでの持ち運びなんて無理。そもそも価格は10倍の30万だし無理の無理。
Nikkor史上最高の明るさと言われていた当レンズも、Zマウントの58mmF0.95が出てきてそのネームバリューが薄れてしまったのかもしれない。
ISO感度をかなり上げれるデジタルカメラの世界に置いては、レンズの明るさというのは訴求力に乏しくなってきたように思える。
ともかく、未だFマウントレンズにおいては最も明るいレンズには変わりなく、この古くて明るいレンズをあえて使う事でどこかマンネリ化した写真を変えてみたいというのがあった。
ピント面は浅く、強烈なボケが発生する。
高解像度のD810だが、撮影結果は何処かノスタルジックだ。
マニュアルフォーカスなので動きものには慣れていないこともあってとことん苦手。
解放での描写は甘く、周辺減光もきつめに発生する。
人によっては好みのグルグルボケも発生するので使い方によっては面白い写真が撮れるのかも。
【F1.2絞り解放で撮影。描写の甘さに加え、周辺減光がかなり目立つ。】
これはこれでアリな表現。この手の描写はトイカメラが得意だが、それらとの決定的な違いは色乗りの良さだと思う。
【F8に絞り込む。風景撮影のスタンダードな設定。F5.6あたりからカリッとした描写に様変わり。】
『絞れば描写性能は上がる』の典型例。
雨が降った後の風景も、絞り解放特有のピントの甘さを利用することで、より湿り気のある情景になった。
ボケ具合の確認は小物を利用して。
【F1.2絞り解放。ピント面の描写に甘さはあるが背景は大きくボケ、被写体が背景から浮き上がりつつ、柔らかい表現へと繋がっている。ボケのフチにできる二重ボケは設計の古さゆえ。】
【F2.8と絞り込む。背景のボケ具合は程よく整理された。被写体のピント面も芯が出てきたように思える。絞り羽は現代の設計のように円形絞りではないため、ボケの角が目立つ。円形絞りのレンズばかり使っていたこともあってあまり好みではないボケ方だ。】
【F8へとさらに絞り込む。絞り解放と比べると驚くほど描写性能が上がりカリッとした写りに変貌する。教科書通りの変化。】
絞り方で同じ構図でも、解放であれば雰囲気と柔らかさが目立ち、絞り込むほどに背景のディティールが鮮明になり奥行きが広がる。
『絞れば描写性能は上がる』という基本を踏まえるならば、このレンズは『絞って使うと負け』のような気がする。
あえて絞り解放の描写の甘さを残しつつ、柔らかい雰囲気をいかに前面に押し出した撮影ができるかがこのレンズを使い込むときのポイントになるのではないだろうか。
晴天の日中で絞り解放だとシャッタースピードが最高速、ISO感度が最低感度になり、露出オーバーになりがち。
少し落ち着いた屋内だと露出にも余裕がとれる。
夜の街角スナップなんかだと面白い画が撮れるかもしれない。
描写の甘さが気になるが、それは普段からカリカリの写真ばかり撮っているからだろう。
単焦点全般に言えることだが、個性が強く出るのは絞った時よりも解放で撮影したときだと思っている。
正直F8まで絞ると、よっぽどピクセル等倍の強拡大してみてみないと差を見分けるのは困難だ。
F1.2という所有しているレンズの中で、『最も明るい』という個性を持つこのレンズを活かしきろうと思うと、やっぱり絞り込むよりも解放側で使い倒す方が理に適っているように感じる。
ここは漢らしく『単焦点、絞り解放、一本勝負』を繰り広げなければならない。
すげぇ縛りだな。
人物を撮ると柔らかい雰囲気になるね。
それなりに光学性能が良いこともあって、ここでも色乗りの良さを感じる。
人物を撮るなら、カリカリよりもオールドレンズみたいに柔らかい仕上がりの方が好みかも知れない。
FM2よりD810に付けて撮影することの方がメインになりそう。
今度、解放時の描写の甘さに定評のあるAF-S Nikkor 50mm F1.4と撮り比べてみようかな。
ブラックミストとの組み合わせは鉄板なんて感じていたけれど使っていないなぁ。