会社の回覧物に『ミニ四駆大会』なる案内物が紛れ込んでいた。
・・・なぜに今更・・・?。
俺が当時小学生高学年から中学生前半までの出来事だ。
当時、『第二次ミニ四駆ブーム』の只中で、俺も漏れなくその波に乗り、ミニ四駆を使った遊びに没頭していた。
『ミニ四駆』とは田宮模型が販売するプラモデルの商品名で、単三電池二本と小型モーターを搭載してコースを走らせることができる玩具だ。
無数のカスタムパーツを組み合わせ、オリジナルのマシンを組み立てることができる。
そしてそれらをコースに乗せて競い合うのだ。
自分のカスタマイズした唯一無二のマシンが激闘を繰り広げる様は、実に生々しい戦いだったし、その生々しさこそが本当に魅力的だった。
速く動くものに興味を持ち始めたのは恐らくこの頃からだろう。
その当時の盛り上がりは社会現象になるまでの勢いで、田宮模型が主催する『ジャパンカップ』においては、各地区大会から始まり、地区予選を勝ち抜いたものが全国大会へ進出。
日本で一番早いミニ四駆が誰であるかを熾烈に競い合っていた。
『ジャパンカップ』ではいろいろと改造制限などのレギュレーションや厳しいルールなどがあったり、参加費も払わないといけないなどの金銭的制約もあったが、近所のプラモデル屋はそうではなかった。
参加費無料、改造制限なし、ただし参加可能年齢は未成年。
うざったい制限など無いのびのびした大会だ。
そして優勝者には、新品のミニ四駆一台。
『ジャパンカップ』などの正規競技大会に出られない子供たちにはうってつけの腕試し場所だった。
プラモデル屋の敷地で展開される長大なコースはもちろん常時無料開放で使いたい放題。
何度も何度も足を運び、走らせ、チューニングをし、大会までのコンディションを作り上げていた。
必要なパーツはすぐその場で購入できたし、プラモデル屋店長のおっちゃんも優しく手ほどきをしてくれた。それに何よりもいろいろと試行錯誤するのは非常に楽しかった。
その中で行われる、プラモデル屋主催の大会。
3台同時に走らせて1位のマシンだけ次のステージへ進めるトーナメント方式。
1回戦は勝ち進み、2回戦。
対戦相手の様子を伺うと、6歳位の女の子だ。
こんな小娘が1回戦を勝ち残ってきたのは奇跡だろう。
そう想って、ミニ四駆の電源を入れ、スタートラインに立つ。
・・。
・・・。
違う・・・・。
6歳の小娘の握るそのマシンから聞こえる、気の狂った音。
悪魔の悲鳴のような不気味な音が会場に轟く。
『これは・・・セッティングミスではないっ!?』
スタートと共にホームストレートを爆進。
第一コーナーの中ほどで、こちらの負けを突きつけられるほどの差。
その悪魔のマシンがカーブを曲がるたびにコースは軋み、その姿を見た子供たちは驚愕する。
あっという間に周回遅れを食らい、後ろから追突されて、俺のマシンだけ無残にも場外まで吹き飛ばされ大破した。
完敗とはまさにこの事だ。
『何故だっ。何故あんな小娘にぃっっ!!』
レース終了後、自慢げに娘とマシンを称賛する『父親』。
そう。こいつだ。
その幼い彼女が戻っていった先を覗いて驚愕した。
そこに使われているカスタムパーツの全ては小学生の小遣いでは容易に揃えれることのできないものばかり。
使っている電池はマンガン電池でもアルカリ電池でもない、『ニッカド充電式電池』!
しかも、10本単位で揃えられており、車のバッテリーから電源を引き込んで、使い切った端からその場で急速充電。
その充電池1本買うのにミニ四駆本体1台買えるんだぜ!?
モーターも同じものを10本単位で購入し、その中から個体差を判別して性能の良いものをピックアップする装置まで作り出してしまっている始末。
決勝戦・・・。
6歳の女の子と、4歳くらいの男の子の対決。
あまりにもの爆速で、もはや目で追うのが困難なほどのレース展開・・・。
これほど高次元で拮抗した戦いが他にあっただろうか。
もう、皆まで言うな。
空母のないゼロ戦が、原子力空母を旗艦にする高性能戦闘機F-35にかなう訳がないんですよ。
どう足掻いても、ね。
ましてや、F-35同士のドックファイトに割り込むなんて、蜂の巣にされに行くようなもんです。
少年は悔しさを胸に大破したマシンに小遣いをはたき、父親たちは潤沢な資金を贅沢に使い『勝利』を勝ち取る。幼い子供たちは、父親がおもちゃを沢山買ってくれると大喜びだ。当然、父親の株も好景気だ。
父親たちの代理戦争。
血も涙もあるようでないような戦いだっ。
なんだ?このモヤモヤ!?
その裏で、誰が一番儲かっていたのかを気付くのは、少年がもう少し大人になってからの話。
超高級パーツ使いたい放題の『改造制限無し』ルール・・・・。
そういえば、プラモデル屋店長のおっちゃんはすごい楽しそうな目で大会を見ていたな。
【今だ我が手中にある旧時代の遺物】
諸君、武器とは使ってこそ、初めてその価値が現れるものである。
諸君、戦争に勝つためには戦争が始まる前から勝てる準備をしておく必要があるのだ。
諸君、戦争に必要なものは勝利だけである。
諸君、即ち此れは代理戦争である。