蒼天遊々な旅

LIFE IS TRAVEL

山行記 伯耆大山雪中行 後編


雲が晴れてくれないか山頂で待つが、一向に晴れる気配なし。
昼時になってきたので山頂の避難小屋へ移動し昼食をとることにした。


夏場はこんな感じだったんだけどね。

裏側に回ったところの一階出入り口は解放されていたので、そこから中に入り昼食の準備を始める。
避難小屋の二階から侵入できるようになっているのは、大雪で埋もれても入れるようにという事か。

雪に埋もれた避難小屋は真っ暗でヘッドランプを照らしての食事。
広い避難小屋も沢山の登山客で賑わっていた。
ザックにスキー板やスノーボードを付けている人、ロープやカラビナを沢山携えている人、様々だ。

昼食後、ほんの少し冒険をしたくて剣ヶ峰に向かう尾根へと進む。

風と、霧が視界を遮る。
ポイント的には弥山三角点のあるピーク。
その先の道は、トレースがついてはいるが10m先は見えない。
ここから先はナイフリッジ。右手は南壁、左手は北壁。
進めばその足元の幅は不気味なくらいに狭い。
左右の谷の底が見えない。両側500mは切り立っているはずだ。

これ以上先へ進んで、剣ヶ峰へ辿り着いたとしても何もないのだ。
「よし。今日のゴールはここまでにしよう。」

晴れればもう少し先へ行けるが、今はその価値が無い。
山に登るのは自由だが、山を無事下りるのは山屋の義務だ。
後ろ髪を引かれる思いが少なからずあったが、下山を開始した。

8合目付近。
北西からの風が濃霧を吹き払う。
断続的に晴れ間が見える瞬間が増えてきた。
うーん。まだ時間もあるし、ちょっと戻ってみようか。
単純に風景を見たい。
そんな思いで元来た道を戻ってみる。



山頂付近で一瞬だけ。さっきまでいた弥山三角点のピークが見えた。

この一瞬を最後に再び霧と強風に辺りは包まれた。
弄ばれたなぁ。
もう時間だろう。
また来よう。
また、ここへ来る理由が出来た。


晴れたり曇ったりする山頂を恨めしく想いながら下山を開始。
元来た道を戻るのも面白味に欠けるので、行者谷へ下り大山寺を参拝することにした。
本来、行者谷へ下るルートは5合目と6合目の間にある分岐で樹林帯を抜ける道があるのだが、せっかくの雪山。
雪山ならではの下りルートがある。
6合目避難小屋裏の斜面をトラバースし、その先にある急傾斜を下って行くのだ。


急登の下りを利用して、ピッケルを使って滑落停止の訓練をしたり、誰も通っていない場所をステップを刻みながら下降したり。
雪山でしかできない事を存分に楽しんだ。

遮るものも少なく、他の登山客もほとんどいないので、二人で尻セードでスピード感のある下山を愉しんだ。
特に機材も必要なくスピーディーに下山が出来るのでなかなか良いわ。
高価なパンツを酷使することになるので、やたら尻セードするのは問題だが。
ヒップソリでも十分かもしれん。

下山が進むにつれて、山頂の雲が晴れてきた。
うーん欲しいなぁ。今山頂に居たら、綺麗な稜線が見えたかもしれないなぁ。


それでもここで美しい北壁を望めたのは、ある意味ご褒美かもしれない。
目に焼き付けよう。
この荘厳さは臨場でないと感じれない。

大山寺を参拝後、参道を降り旅館街へ。

旅館街にある立ち寄り湯で汗を流し。

その温泉の食堂で早めの夕食。

帰路。バックミラーに映った大山に目が留まり、車を停めた。
あーあ、晴れちゃってるよ。俺の予報通り。


これも自然相手。
思うようにいかないのが野遊び。
だから面白い。
諦めきれない想いは沢山あるが、それが再びここに来ようとする理由になるのだ。

それでは、またね。


雪のシーズン最後。
伯耆大山に登頂を果たすことが出来、いい思い出になった。



往路:夏山登山道 2時間15分
復路:行者谷 六合目小屋から北壁西側斜面を下山 1時間40分
ピークが二つあるのは、8合目付近で浮気して再び山頂へ戻ったため。


3月は比較的天候が安定しておりそういう事もあってか登山客が多い。
下界はすでに雪解けが進んで積もっているところは無いが、大山山域に入ると風景が一変する。
山頂付近の積雪は木道が埋まっていることから2m近くはあるだろう。
風に晒され磨かれて、雪と言うより氷が覆っている様な状態だった。
昨年6月に訪れた時は南壁麓に残雪が僅かに残っていたところを考えると、永く雪が残る様子だ。
この時期に山頂を目指すのならば、抜かりない雪山装備と体の準備を済ませておきたい。