雨が降りそうな天気だったが、無性にバイクに乗りたくなりエンジンをかけてしまった。
夏の終わりが近づいているのか、山道を抜ける空気は少し肌寒かった。
おもむろに進む、森の小道。
舗装はされているので、あながち走れないわけではない。
森を進む。
幾重の分岐を気の向くまま進んでいたらとんでもなく山奥まで来ていた。
ただ、市街地から1時間もしないところなのだが、ふと見知らぬ土地へ迷い込んだ感覚だけがあった。
何故か不思議な事に、道の行く先々には神社で飾られている様な紙の飾りが幾つも点在している。
『もしかしたら、帰れないかもしれない。だが、それでも構わない。』
そんな不安をよそに、それも覚悟の上のルートだ。
ここは何処だろう。
山深い道を進む。
『閑散』という言葉を通り過ぎて、もはや廃村レベルの集落。
そんなとき、山間の耕作放棄地に見たことのない物体が地面にめり込んでいる。
『なんだ!?これは!!?』
思わずその光景に息を飲んだ。
バイクのエンジンを切り、静かに降りた。
まるでSF映画のワンシーン。
これは現実なのか?いや、夢に決まっている。そうだ、なんだか山間に迷い込んだ辺りからどうも現実味が無い・・・。
ただただ呆然とその現実離れした光景を目の当たりにしていると、背後からガサゴソと物音が。
そして、聞きなれた言語でこちらに問いかけてくる。
なんてっこった!!
生まれて初めて見る生物に跨った、宇宙人!!!
『あ、あ・・・あ。。。』
あまりにもの出来事に動けなくなった。
『怖がらなくていい。私は宇宙の旅の途中で銀河間飛空艇が故障し、たまたまこの星に不時着したのだ。君たちには何も危害を加えるつもりはない。宇宙条約に違反してしまうからな。』
『何を言っているのだ?このオッサン、もとい宇宙人!!!』
跨っている馬のような生物は少し興奮気味に前後に揺れている。
どうやらこちらの言語は解る様なので、恐る恐る尋ねた。
『あ、あなたは、何処から来たのですか?』
謎の男は、少し悩むような表情を見せた後、静かに答えた。
『この銀河系からの座標、そして君らの言語でいうとM104という銀河系から来たことになる』
・・・M104!?
なんてこった。
もしその話が本当だとしたら、会長の自宅の天体望遠鏡で撮影した銀河じゃないか?
もはやここで俺の探究心は爆発する。相手が宇宙人であることを忘れて質問攻めにする。
何のためにこんなところに来たのか?
一人で何をしているのか?
貴方が跨っている馬の様な生物は何なのか?
どんな生活を送っているのか?
そして、これからどうするのか?
彼はこの星で調達した材料で新たな飛空艇を建造し、もうすぐ旅立つとの事だった。
その為に、この周南市の山間にベースキャンプの様な簡易基地を作り旅立ちの準備をしていた。
原住民が近づけない様にしていたらしいが、どうやら俺は何かの影響で迷い込んでしまったようだ。
簡易基地も不思議なつくりをしていて、重力がおかしくなっているのか家が変な方向で傾いていたり、見たことのないようなブランコがあったりと、およそ地球上には存在しないモノばかりだ。
『今日、私はこの星を離れる予定だ。新しい飛空艇が完成したのでな。』
俺は、想わず声に出してしまった。
『俺も連れて行ってくれ!!!』
彼はニコリと笑い、俺を新たに建造された飛空艇に案内してくれた。
俺は、持っていたすべての荷物をその場に捨て、ゆっくりと飛空艇へ上がる階段を上がった。
カメラも仕事も、地球に住むことで背負うすべての『しがらみ』とやらを此処で捨て去ったのだ。
これから人類史上、誰も見たことのない世界を目の当たりにするんだ。
宇宙の旅が、今始まる。
おわり。
なお、この度のブログ記事の8割はフイクションです。