静かに沈んでいく。
10kgのタンクと、7kgのウエイトを装備した俺の体は、不恰好ながらも沈んでいった。
天候、雨のち曇り、水温21℃、水深5m、透明度全方位約4m。
コンディションはお世辞にも良いとは言えない。
静かに沈んだ。
何も無いと思っていた海底にはびっくりするほど多くの生物が生息していた。
小さな小魚の群れやヒトデ、クラゲ、なまこ、イソギンチャク・・・
いろいろな生物が生息していた。
普段は人間は入れない領域。
そこに俺は沈んでいた。
音は無い。
聞こえるのは自分の吐いた息が気泡になって上昇する音だけ。
自分の背負っているタンクの空気のみで息をしている。
生まれて初めて、息をする重要性を感じた。
ゆっくり吸い、ゆっくり吐く。
普段何気なく、無意識のうちにやっている動作なのに、この領域(水中)では、考えさせられる。
吸った空気が肺に入り、肺が浮力を発生させ、体が浮く。
吸った空気を吐くと、浮力が無くなり、体が沈む。
確実に、体に、肺に空気が入っていくのを感じる。
不思議な空間。
無重力。
蒼い宇宙に投げ出された感覚。
多くの生物に囲まれている。
俺は深淵に足を踏み入れた。
俺の超ド近眼のためにチューニング(レンズ換えただけ)されたマスク。
やはりここも、永らく愛用しているパーソナルカラーの赤。
なぜ俺のパーソナルカラーが赤なのかはまたの機会に。(知ってる人は知っている。感じた人は感じている。)